席確保 ニ景

電車待ちの行列にて
どうにかして前に割り込もうと、明らかに不審な動きをしている
ご老人を見て
世も末だなあと溜息をついた。

順番抜かしにエネルギーを費やすご本人も、
そうまでしないと座れない=席を譲ってもらえないという経験説を彼に与えた現代社会も。


その次の日。
電車の中、吊り革片手に読書に没頭していて、ふと視線を上げたら目の前の席が空いていた。
思わず座ろうとしたら、すぐ隣にいた小柄な老婦人とバッチリ目が合った。

・・・しまった、気付かなかった。

慌てて元の立ち位置に戻りつつ、前夜の光景が一瞬脳裏に浮かぶ。
嫌な顔をされるかな。


と。

「脚が悪いから、座らせてくださる?」

ゆっくりと、でもお年の割にはっきりとした発声、丁寧な口調。
真っすぐに目を見て、告げられた言葉。

ええどうぞ、と恐縮しつつ座って頂く。

そして数駅先で席を立った彼女が、最後にもう一度私の目を見て

「ありがとう」

そう言い残して去っていかれた後姿。

正直、「参りました!」という心境でした。


口調も所作も表情も、あくまで嫌味や「責める」ニュアンスはなく。

最後まで柔らかく、上品な物腰で通された、はるか年上のその女性を
本当に美しいと思った。


前日のこともあって、本当に心が洗われ、深く刻まれたワンシーンです。


これから年齢を重ねても、忘れずお手本にさせて頂きたいと思います、

ありがとう。