絶対に外に出るなと言われた

 




いわゆる低収入層の集まる、治安の悪い地域と、整備された5つ星ホテルの
距離の近さにまず驚いた。
移動距離は、車でほんの10分ほど。


近過ぎて、頭がうまく切り替わらなかった。


そして
「近過ぎる」と思ったその感覚が、単なる自分の気持ちの安定のための
要求なのだと、同時に思い知る。



国際的なホテルや、オフィスビルの立ち並ぶ都会から、少し離れればスラム街。
そんな土地はまったく珍しくないと、少しは知っていたはずで。


そして、少々遠かろうと近かろうと、それは「同じ国」の抱えた姿であり、
身近で生じている問題。
ただ、そこに2,3時間の移動距離があることで、単に訪問者である自分は
目を背けるだけの余地を持つことができたのだ。


まるで「別世界」のように切り替えて、豪華なホテルのベッドで当然のように
休むために。


折しもイベントシーズン。
ホテルの宴会場は、大きな企業のパーティで賑わっていて。
ロビーでは、贈り物を手にして帰路につく、賑やかな集団とすれ違った。


数ブロック先では、小銭や食べ物の為の強盗・殺人が頻繁に起こっている。


そんな当たり前の現実を、改めて、何度も何度も考えた夜。