山女日記(湊かなえ)

連続エントリで湊かなえシリーズ。

山女日記 (幻冬舎文庫)

山女日記 (幻冬舎文庫)

こちらは登山をする女性たちの短編集。
何より特筆すべきは「犯罪も陰謀もない湊かなえ作品」という事かと。笑

amazonレビューでも「珍しく悪人が居ないですね」とか言われてます。
その点が好評だったり、逆に物足りないという人もいるようですが。

各章の主人公である女性達の境遇や人物像も、本作は割と普通の人たち。
派手なドラマではなく、登場人物たちはそれぞれに、山に登りながら自分自身を
見つめ直します。
彼女たちが思いを馳せるのも、恋愛や結婚、家族との関わりについてなど普遍的とも言える
テーマで、読むとどこかで自分や周りの人を重ねたり、「経験するかもしれない未来」「こうなって
いたかもしれない過去」を思い起こされるかもしれません。

各章のタイトル=舞台はすべて、日本の百名山に含まれる山だそうです。
山頂に向かうまでの景色や種々の感覚の描写も含め、読んでみると少し、山に対する興味も沸くかも。

ちなみにある章で、「この土地が映画の舞台になった」と盛り上がる女性達の会話を、主人公があまり
興味も沸かず聞いている場面の描写があり、同じ地域を舞台にした映画を比較的最近見た気がしたので
思い出してみたら、筆者が原作を書いた映画だったことに気づいて笑った。

おかしいんだよ。自分で自分でってなんでも一人でやろうとするくせに、人からは頼られたいって思ってるんだから。
そのうえ、ちょっとでも自分が頼らなきゃいけない状況になったらもう、ダメ人間になってしまったように思い込んじゃって。
立派な人っていうのはね、自分がダメなときには、お願いします、ってちゃんと頭を下げられる人のことなんじゃないの?

「怒られるの覚悟で言うけどさ、舞ちゃんの頭には、富士山は日本一っていう文字とか、三七七六メートルっていう数字でしか存在してなかったんじゃないかな
(中略)
そんな状態で富士山に登ったら、頂上まで到達できても、頭の中は日本一制覇とか海抜三七七六メートルのままなんだよ、きっと。

「晴れた日は誰と一緒でも楽しいんだよね。でも…」
言葉を継ぐ必要はない。
雨が降っても一緒にいたいと思える人であることを、誇りに思う。